リペア

アコギの弦高の目安は?演奏スタイル別に各弦の適正値と調整方法を解説

 ギター初心者の方であれば、標準的な弦高にセッティングするのが安全です。機種や演奏スタイルによって何が標準かという目安も変わりますが、筆者は以下を一応の基準としています(いずれも12フレットで測った場合)。

  • 6弦側:2.5〜3.0ミリ
  • 1弦側:2.0〜2.5ミリ

ただし、筆者のギターは以下のようにセッティングしています。

  • 6弦側:2.2ミリ
  • 1弦側:2.0ミリ

これは筆者のアコギの先生が、あまり強くピッキングしないスタイルを基本としているからです。また、よく弾く楽曲がフィンガーピッキングのアルペジオまたはソロという点も理由となっています。

このように、ギターの弦高には「決まり切った目安」というものはありません。ギターによっても、適切な弦高が変わってきます。

そこで、この記事では様々な資料も参照しながら、スタイル別にアコースティックギターの標準的な弦高をガイドしていきます。

弦高とは?基本的な知識

弦高とは、12フレット上で弦とフレットの間にできる隙間の大きさ(高さ)を指します。より具体的には、フレットの一番上と弦の一番下の間隔を見ます。

一般的な弦高の基準は6弦側で2.5~3.0mm、1弦側で2.0~2.5mmといわれています。

なぜこのように幅があるのかというと、コードをストロークで弾く場合は少し高めがよく、ソロなど単音を弾く場合は低めのほうが弾きやすいからです。

弦高が適切でないと弾きにくくなる理由

弦高が高すぎると、ソロを弾くときに左手の運指がしにくくもたつく原因になります。またコードを弾くときに、1〜2フレットのセーハがしにくいこともあります。

ナットが高すぎて弦高が高い場合は、とくにセーハがしにくい傾向が顕著です。

一方、弦高が低すぎると、強めに弾いたとき弦がビリビリと振動してしまいます。筆者のギター(6弦2.2ミリ、1弦1.8ミリ)は、強めにストロークするとどこかの弦(5・6弦が多い)がビリビリいいがちです。そこで、伴奏のときは別のギターを使っています。

弦高を測る3つの方法

HOSCOのツールは優秀

リペア時には専用のストリング・アクション・ルーラーを使用するのが確実ですが、ない場合は市販の定規(シンワ測定製がおすすめ)でも弦高を測れます。

出先で何もない場合、筆者は1円玉を使って大まかに弦高を見ています。その方法から解説していきましょう。

何もない場合(1円玉2枚で推測)

1円玉2枚の厚みが6弦の弦高に近い

筆者は手元に何も道具がない場合、1円玉を使って弦高を見ています。

1円玉をデジタルノギスで測ると、1.3ミリないし1.4ミリです(1.4ミリの場合が多め)。ということは2枚重ねると2.6ミリないし2.8ミリなので、これより弦高が高いと「弦高が高すぎる可能性がある」と判断できます。

逆に、1円玉を2枚重ねた高さよりも少し低いぐらいだと「ちょうどいい弦高の可能性が高い」と考えられます。

「ハードオフでふと気になったギターの弦高を見たいが、手元に何もない」という場合は、1円玉を試してみてください。

定規を使って図る場合の手順と注意点

ゼロスタートの定規でも弦高を測れる

定規を使って弦高を測る場合は、定規の端からメモリが始まっている「ゼロスタート」のものを選んでください。

また、できれば0.5ミリ刻みでメモリがついているものを選ぶと、より正確に弦高を測定できます。

あまり長いと取り回しにくいので、10~15センチくらいの金属製の定規を選んでください。

シンワ測定の高精度な定規でも、意外とお手頃な価格で手に入ります。

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専用のルーラーの使い方と選び方

よく使われているのはバロックのストリング・アクション・ルーラー(Baroque STRING ACTION RULER)です。筆者も使っていますが、サドルスロットの深さを測るときにも使えて便利です。

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しかしリペア時には、HOSCOのステップ・ゲージを使っています。

このゲージでないと0.1ミリ単位で弦高を測ることができないため、精密にリペアをしたい場合はぜひ入手してください。

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最後に、激安ですませる場合は、Amazonで海外業者が販売している製品でもよいと思います。筆者はお出かけ用に300円くらいのストリング・アクション・ルーラーを購入しましたが、Baroqueと比べても精度はほぼ互角でした。

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ただ、激安品は海外から送られてくるので、到着に時間がかかります。筆者が購入した物はアフリカのシエラレオネから送られてきたため、2週間ほどかかりました。

弦高が高くなる原因

弦の張力によってネックが曲がったり、ボディに歪みが出ることが、弦高が高くなる主な原因。場合によってはいくつかの要因が複合していることもあります。

リペア方法は、弦高が高くなってしまった原因ごとに異なるため、まず最初に原因を特定する必要があります。

もとから弦高が高いギターの場合

メーカーや機種によりますが、販売時点ですでに弦高が高いギターもあります。特に、ナットに関しては高めに設定されているものが目立ちます。

なぜなら、ナットは使用しているうちに摩耗して、少しずつ溝が掘られ、低くなっていくからです。

メーカーとしては不要なクレームを避けるためにも、ナットを高めのセッティングとしているようですが、そのせいで演奏性が犠牲になってしまいます。

このケースではナット溝を適正に切ってから、さらに弦高が高いか適正かを確認します。

ネックの順反りによって弦高が高くなるケース

ネックの反りは、写真のように長めの定規を当てて確認します。ただし、弦をはずさないと確認しにくいので、リペアを行うタイミングでの測定に向いています。

弦を張ったまま簡易的にチェックするなら、以下の方法で確認します。

  • 15フレット(ジョイント部)と1フレットを押さえた状態で9フレットを指で叩く

フレットと弦にすき間が空いており「カツカツ」と音がする場合は順ぞりしています。ただし、いずれもわずかなすき間であれば問題ありません。

ネックの元起きによって弦高が高くなるケース

ネックの元起きは、別名はハイ起きともいいます。弦の張力によってブリッジが引っ張られ、トップの板のうちブリッジからサウンドホール側が沈み、反対側が盛り上がった状態になっています。

元起きを簡易的にチェックするなら、以下の方法で確認できます。

  • 9フレットと20フレットを押さえた状態で15フレットを叩く

この時、フレットと弦にすき間が空いており「カツカツ」と音がする場合は元起きしている可能性があります。

演奏後は弦をゆるめるようにしたい

筆者がアコギを習っている先生は「長期保管するときは弦をゆるめたほうがいいが、普段演奏するギターは張りっぱなしでいい」と言います。

しかし、リペアする立場で考えると「演奏が終わったら常に弦をゆるめてほしい」と考えます。

なぜなら、古いギターの大半が元起きしているからです。

「ギターは元起きするものだ」「弦高が高くなってしまう楽器だ」と考えて、できるだけ対策をしておかないと、いつか必ず弦高が高くなってしまいます。

めんどうでも、演奏後は必ず弦をゆるめておくのが安全です。

弦高の調整方法

弦高調整には、症状別・状態別に様々な方法があります。

ここでは、最も手軽に試せるトラスロッド調整から、高難度のネックリセット(ほぼプロしか無理な世界です)までを、ざっくりと解説します。

トラスロッド調整

ネックが順ぞりしていて弦高が高い場合は、トラスロッドで調整できます。

トラスロッドは、逆反りの場合はゆるめて(反時計方向)、順ぞりの場合は締める(時計方向)と、ネックの反りが矯正できます。

「怖いからロッドは触らない」という人もいますが、締めすぎた場合は、ゆるめると元に戻ります。意外とやり直しがきくので、あまり怖がらずに挑戦してみてください。

ただし、どれくらい回したか把握しておかないと、自分の中でデータ化できません。

そこで、筆者は上の写真のように、ロッドを回していない状態を油性マジックでマークしておき、それを基準に「何度回したら改善したか」を確認しています。

また、トラスロッドは一気に回すのでなく、30度くらい回したらネックに定規を当ててチェック……を繰り返します。

なお、トラスロッド調整で矯正できるのは通常のネックの反りだけで、元起きは直せません(ハイポジションには対応できない)。

ナットの調整

ナット調整には専用のヤスリが必要

ナット溝が高すぎて弦高が高い場合は、ナットの調整を行います。必ずナット溝切り用のヤスリを用意してください。

写真のように古いカッターの刃をあてて高さを確認しながら削ります。カッターの刃は2フレットとナット溝に当てて、1フレットとの間をチェックします。

筆者は1フレットとの間が0.5ミリくらいになったら弦を張り、その弦を使って調整するようにしています。

ナットの高さは本来1フレットとの関係で決まります。そのため「弦高を下げるためにナット溝を調整する」と考えるのではなく、「ナットが適正でないために弦高が高い場合はナット溝を調整する」と考えてください。

ナット溝の切り方について、詳しくは以下の記事で解説しています(ナット交換の記事ですが、ナット溝についても具体的に解説しています)。

サドルの調整

12フレット位置で1ミリ弦高を下げたい場合、サドルを2ミリ削ることになります。サドルは常に、12フレットで下げたい数値の2倍削る必要があるわけです。

サドルを削る場合、一般的には#150のサンドペーパーを使用し、平らな机などに置いて(できれば固定して)使用します。

まず最初にシャープペンシルなどで、サドルに「どこまで削るか」というラインをケガきます。

実際に削る時には「20回削ったら逆方向に持ち替えて20回削る」という風に、サドルを回しながら削ると偏りにくく、平らになりやすいです。

ブリッジとサドルスロットの調整

単純にサドルを削っても適正な弦高に調整できない場合、ブリッジ上のサドルスロットを掘り込み、サドルをさらに低く設定する方法がとれます。

StewMacから専用のジグが販売されていますが、非常に高価で、なおかつ別途トリマーを購入する必要もあります。

そこで、一般の人にも手が届く方法として、追い入れノミで掘り込む方法があります。

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一例として、12フレットでの弦高を0.5ミリ下げたい場合、サドルスロットを1ミリ掘り下げる必要があります。

いろいろな方法がありますが、筆者は適当なナットに現在のサドルスロット上端のラインを引いておき、それを目安に作業しています。

こまめにナットをスロットに差し込み、何ミリ掘り込めたかをチェックし、1ミリに到達したところでストップします。

作業後に、サドルスロット用のファイルでガタつきをなくせば完了です。

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フレットを打ち直す

古いギターはナットワイヤーが細い場合も多い

弦高とは、フレットの上端と弦の下端の間の間隔のことでした。つまり、フレットをやや大きな物に交換すると、それだけでわずかに弦高が低くなります。

特に古いギターの場合は細いフレットを使っている場合が多く、そのせいで弦高が稼げないという事情もあります。

筆者は、1970年代のギターをリペアする場合、よくYJBの2.4×1.4のものに交換しています。このフレットであれば大きすぎず、なおかつ最初についているフレットより高さがある点がおすすめです。

ネックリセット

アコースティックギターのネックリセットは、ネックとボディの接合部(ジョイント)を一度分離し、接続部分の角度を最適化してから再度接着する修理方法です。

通常の弦高調整、指板調整などで直らない場合の最終手段といえるでしょう。

ただし、ネックリセットはギターリペアのなかでも特に高度な技術を要するものです。リペア料金も数万円から、時には10万円以上に及びます。

そこで、このサイトで扱うような古い日本のギターには、高価すぎるリペア方法と考え、この記事では詳しく扱いません。

ネックリセットを検討する場合は、信頼できる専門店に相談してください。関東ならZin Guitar Workshop、関西ならギターワークスがおすすめです。

プレイスタイル別のおすすめ弦高(めやす)

この記事の冒頭で、ギターによって最適な弦高は異なるという話をしました。それだけでなく、同じギターを調整する場合であっても、弾き手のプレイスタイルによって最適な弦高が変わってきます。

そこで、この章では、プレイスタイルごとの弦高の目安を解説します。

フィンガーピッキング主体で演奏する場合

  • 6弦側:2.2ミリ
  • 1弦側:2.0ミリ

フィンガーピッキングでは1音1音聴かせる必要があるので、左手の押弦のしやすさが重要になります。

反面、強くストロークする場合に比べて弦がビビりにくいので、演奏性を重視した低めのセッティングとするケースが多いです。

上記は筆者のギターの弦高ですが、これくらいなら下げても問題ない場合が多く、あとは試行錯誤でもう少し上げるか下げるか調整します。

弾き語りなどでストローク中心の場合

YAMAHA FG-200J
  • 6弦側:2.5〜3.0ミリ
  • 1弦側:2.0〜2.5ミリ

写真は、竹原ピストルさんが使用しているFG-200の後継機種「FG-200J」。筆者はこのギターをやや高めの弦高にセッティングしています。

ただし、高めといってもあまり高くすると弾きにくいため、上記の範囲内におさめるべきでしょう。竹原ピストルさんも、インタビューで「弦高は普通くらい」と言っています。

1970年代の古いギターの場合、弦高が4ミリくらいのケースもよくあります。弾き語りで演奏する場合も、そのまま使うのではなく、きちんとリペアしてあげてください。

カポをよく使う場合のポイント

カポをよく使う場合は、弦高だけでなく、フレットがすり減っていないかもチェックしてください。

カポを装着する付近のフレットが部分的に減っている場合、その部分だけカポが効かずにビビリが発生することがあります。

こうなったらフレットを交換した方がいいので、まずフレット交換をしたうえで弦高調整を行います。

速弾きソロを重視したセッティング

  • 6弦側:2.0ミリ
  • 1弦側:1.8ミリ

上記の数値であれば、ほとんどエレキギターなみになるため、速いパッセージが弾きやすくなります。

一方、試してみると、「力強いストロークは無理」という感覚です。ギター1台ですませるなら、ここまで低くはしない方がよいと思います。

また、この水準まで弦高を下げるとギターが鳴りにくくなる点にも注意が必要です。テンションが弱くなる分、音の大きさとキリッとしたテンション感は失われがちです。

そのため、マイクやピックアップで音を拾い、アンプに通すことを前提としたセッティングといえるでしょう。

6弦1.8ミリ、1弦1.5ミリくらいまで攻める人もいます。ここまで低くすると、ピックを使ったストロークには別のギターが必要になります。

アコギの弦高の目安と調整方法まとめ

アコースティックギターの弦高は、プレイスタイルや楽器の状態によって最適な値が異なります。本記事では、弦高の基礎知識や測定方法、弦高が高くなる原因、調整方法、さらにプレイスタイルごとのおすすめ弦高について詳しく解説しました。

まず、弦高の基準値として、12フレット上で6弦側が2.5~3.0ミリ、1弦側が2.0~2.5ミリが一般的です。弦高調整をする場合、とりあえずここからスタートするのが確実です。

ただし、フィンガーピッキング主体や速弾きソロを好む場合はこれより低く、弾き語りやストローク中心なら、上記の範囲内でやや高めに設定すると演奏しやすくなります。

弦高を適切に管理することで、ギターの弾きやすさは大きく変わります。もし、ギターが弾きにくいと感じたら、弦高調整にチャレンジしてみてください。Fなどセーハコードの弾きやすさにも、大きく影響してきます。


参考文献

アコースティック・ギター・メンテナンスガイド(増補版)」リットーミュージック ISBN978-4-8456-3917-5
メンテでギターが弾きやすくなる理由弾きにくい理由」リットーミュージック ISBN978-4-8456-2049-4
ギターズ・オンリー Vol.2」シンコー・ミュージック ISBN978-4-401-63293-0

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